“芭蕉布の里”、沖縄・大宜味村へ

“芭蕉布の里”、沖縄・大宜味村へ
沖縄県の玄関口、那覇空港へ降り立ち、本島北部・やんばる地方を目指してドライブすること約2時間。東シナ海とイタジイの森に抱かれるように位置するのが大宜味村です。
人口3000人弱の小さな村に北風が吹けば、ある植物が収穫シーズンを迎えます。
その植物とは、糸芭蕉(いとばしょう)。バナナと同じバショウ科に属する草本植物で、沖縄県の伝統織物、芭蕉布(ばしょうふ)の原料です。
芭蕉布づくりは、約3年かけて原材料を育てるところから始まります。その繊維から糸を績(う)み、必要な量がたまってから、ようやく布を織りはじめることができる織物です。
作るのに手間と高度な技術を要する芭蕉布は、いまや生産量が限られており、高級生地として憧れられる存在に。ですが時代を遡れば、農民から琉球王家まで幅広い身分の人々が袖を通した身近な布でした。
昔は沖縄県のあちこちでつくられていた芭蕉布づくりが、今日まで連綿と受け継がれてきた土地が大宜味村です。特に村内の喜如嘉区は、重要無形文化財“喜如嘉の芭蕉布”の名前に冠されているように、芭蕉布の生産地として知られた土地。集落内を歩けば、大小様々な糸芭蕉畑を見ることができます。
この土地に冬を告げる渡り鳥、サシバが甲高く歌い始めると、いつから糸芭蕉の収穫を始める予定か、芭蕉布職人たちは挨拶代わりに尋ねあうようになります。
冬に大宜味村を訪れれば、運が良ければ糸芭蕉畑で職人たちの収穫作業である“苧倒し(うーとーし、うーたおし)”を目にすることができるかもしれません。収穫時期は大体11月から翌2月頃。南国・沖縄が寒いうちになるべく多くの繊維を採らなければならず、普段の制作作業よりも体力を使う“苧倒し”は芭蕉布職人たちにとって真剣勝負です。
そのため、もしも作業を目にしても、畑には入らず遠くから見守っていてくださいね。
〈写真協力:芭蕉布工房うるく〉